研究課題名「教育現場で継続的に実施可能な身体活動プログラムの開発 ~思春期前期の子どもたちの健やかな心身の発育を促進するために~」
研究代表者 滝澤恵美
分担者 20名
研究および活動のポイント
- 子どもが抱える心身の健康課題に対する一次予防として、教育委員会、学校職員育と研究者ならびに医療関係者らが他職種で協働し、調査と実践を同時並行で進めながら身体活動プログラムを開発しました。
- 先⾏研究のレビューに基づき心身の成長促進に対する有効性が推定され、かつ統廃合の学校の課題(新しい仲間づくり)に対して合目的な “運動遊び”を体育に試験導入する模擬授業や講演会を行い、学校全体の取り組みとして広めました。
- 学校統廃合前後で、子どもの生活機能(⼼理を含む)と体⼒および睡眠との関係を調査して課題を把握し保健活動を行いました。

図1:学校現場で持続可能なモデル活動の一例(体育における運動遊びの導入)
概要
本研究は現場の教職員によって実⾏かつ持続可能な子どもの健やかな⼼⾝の発育を促進するための身体活動プログラムを開発するために、学校関係者と研究者が他職種で協働して以下の研究課題を遂行しました。
課題1(医療専門職等と教職員との多職種連携):特別支援学級あるいは通常学級において、児童に関する教育上の工夫や配慮に関する相談を教員から医療職者等が受けて、子どもの健やかな心身の発育を促進する関わり方をともに模索しながら、医療専門職者と学校関係者との多職種連携のあり方を検討しました。
課題2(現状把握):協力小学校の全児童(児童数約450名〜500名)の生活機能と体⼒および睡眠との関係を調査して学校の課題を把握し、心身の発育を促進する活動(課題3)に役立てました。
課題3(活動計画および実践):先⾏研究のレビューに基づき有効性が推定され、かつ学校がその導⼊を希望した“運動遊び”を教育現場(主に体育)に試行導入していただきました。
課題4(啓蒙活動):本研究等で得られた成果(課題3)を保護者や児童に報告(講演)し、学校や家庭での関わりにお役立ていただきました。
発表内容
1.子どもの心身の成長の促進に資する普通小学校教職員と医療従事者とのアウトリーチ型連携活動
学外共同研究員(茨城キリスト教大学看護学部看護学科 講師) 海野潔美
茨城県立医療大学保健医療学部看護学科 助教 市川 睦
A小学校に定期的かつ継続的に医療従事者等が訪問し、体育授業内での身体活動プログラムの提案と学校教育上の教職員からの相談等を受けました。体育の中で運動遊びを取り入れた身体活動プログラムを提案し、子どもも教職員も楽しみながら身体活動の必要性を理解することができました。学校教育上の教職員からの相談等では、潜在している学級運営における悩みを言語化し、課題抽出あるいは課題解決に向けた一助となる活動ができました。年単位の継続的な活動により学校側との良好な関係を構築することができました。今後の課題は、現場教職員を含んだ目標の共有と評価、修正と、またお互いの専門性を尊重した関係構築であると考えます。
2.地域の小学校において個別の支援が必要な児童に関わる教員や特別支援教育支援員と医療専門職が協働するための方法とその有用性について
茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科 教員 久保田 蒼
A教育委員会と共に支援を必要とする児童を担当する教員や特別支援教育支援員(以下、支援員)が医療専門職に相談するための手続き(以下、個別相談事業)を定めて、個別相談事業の有用性をアンケート調査しました。学校関係者や保護者からは医療専門職の指導内容に対する好意的かつ有用性を示すコメントを得ることができました。その一方で、個別相談事業の利用のしにくさも意見としてあげられました。学校組織としてのマネジメント体制の構築および運用に際しては理解と慣れるための期間が必要であると考えることができます。
3.小学生における基本的な生活場面での困難さと体力および日中の眠気との関連性
茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科 教授 滝澤恵美
小学生の基本的な日常生活の様子を「子どもの日常生活チェックリスト(以下、QCD)」で横断的に調べて、体力および日中の眠気との関連性を調べました。その結果、QCD総合点は女児、日中の眠気が低い者では有意に高得点となった一方で、新体力テストの総合判定との関連性は認められませんでした。子どもが円滑に日常生活を送る上で十分な睡眠が必要であると推察されました。なお、追加調査により、高学年女子において睡眠時間の急激な減少と休日の起床遅延を認めたことから、高学年以前の睡眠教育が必要と考えることができます。
4.日中の眠気が小学生の日常生活の困難さに与える影響〜同一コホートによる縦断調査〜
学外共同研究員(社会福祉法人清香会あゆみ園 作業療法士) 深谷雅博
茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科 教授 滝澤恵美
小学生の日常生活の困難さを「子どもの日常生活チェックリスト(以下、QCD)」を用いて評価し、属性、体力、日中の眠気との関連性を縦断的に調べました。 1年後のQCD総合点に変化はなく、基本的な生活機能は既に学童期に獲得していると示唆されました。 一方、縦断的な変化および個人差を考慮し学年差もありませんでした。しかし、QCD総合点は女児、日中の眠気が低い者ほど有意に高いことが分かりました。本研究成果を受けて、以下の教育講演を学校保健活動として養護教諭とともに実施しました。
図2:学校保健委員会講演資料
学校において保護者、小学5年生の児童を対象に講演を行った。
(茨城県立医療大学付属病院 小児科 大黒春夏 医師)
【参考資料】
茨城県立医療大学 プロジェクト研究(課題番号2267)成果報告書
令和4年度〜令和6年度:教育現場で継続的に実施可能な身体活動プログラムの開発